2010年 06月 02日
5月の読書録 |
とうとう5月中に読書録が書けなかった。手帳を見れば5月中に読んだ本の列挙はできるが、はや内容はおぼろげだ。すでに返却済みの本が多い。
印象に残った、幾つかの断片の感想を書きとめる事にする。
和解 志賀直哉 角川文庫
志賀直哉の自伝的小説。祖父の代からの名家で、父は財界で名の知れた地位を築いている。主人公は小説の上では、順吉という名で登場する。裕福な家庭に育ったが、幾つかの事が重なって父とは決定的な不和が生ずる。実母は幼い頃に病死、祖母の慈しみで育てられる。その後、迎えた継母は、気遣いのある優しい人である。異母妹が大勢いて歳の離れた兄として慕われている。
最初の場面は、順吉が、娘のお墓まいりのついでに、実家の祖母に会いたいと思い、母に電話を入れるところから始まる。母親は、今は、父親が在宅なので、来ない方がいいという。順吉が父から出入り禁止になっていることを伺わせる場面である。
祖母や母親は、父子の間に立って腫れ物に触るようにオロオロする。
確執の原因は、順吉が中学生の頃、足尾銅山鉱毒事件の見学会に参加を反対されたのが不和のきっかけだった。足尾銅山は祖父が経営者の一人だったのだった。父親の命令は絶対で権威ある時代。息子は社会の理不尽に正義感を持つ年頃だ。お互いに相手を許せない。その後、帝大に入るが、結婚問題で再度衝突する。親に相談もせずきめた妻は、親友武者小路実篤の従妹である。大学もやめ、本格的作家の道に入る。
その後、第一子(長女)が亡くなったことも、父への怨みとなる。我孫子から首も据わらぬ赤ん坊を父に見せに行くよう強要されたために、異常が起きたと感じたのだった。その場面は切迫している。その後、次女が生まれ、今度は祖母や母、幼い妹たちも我孫子まで会いに来る。大家族でも絆の強さを感じる場面である。父も、息子との不和の状態に耐え難く、ひと言謝れば許そうと思っているのに、順吉も、話し合と望んでいるのに、面と向かうと理不尽に謝る屈辱に絶えられず、自分の気持を押さえられず主張してしまう。
さらに関係は悪化する。お互い頑なになる。伯父や母などが、あらゆる機会に、和解を勧めるが、どうにもならない。
母が心痛で倒れたのも気持の変化に影響をもたらした。
父に向かって素直に今までの自分の気持ちを伝えられ、和解できた。
よい小説だと感動した。
がんばらない子育て 木久扇 教育評論社
笑点で演じている、お気楽な感じをそのままと感じた。叱らず、ほめて育てる方針には、賛成だ。しかしなかなか難しい。多分、叱れない人なのだろう。気をつけているのは、食べ物のこと、添加物や身体に悪いと思ったものは、決して与えなかったという。コーラなど与えなかったし菓子類も野放図には与えなかった、ということで、きっと他でも基本的にはしっかりした子育てをしたのだろうと思った。
花石物語 井上ひさし
先頃亡くなられた、井上ひさしさんの本なので、借りてきた。井上氏自身の、青春時代をえがいた自伝小説。
上智大学に合格したものの、東大コンプレックスに陥り、吃音症に陥った、小松青年は、都会に同化出来ず、転地療養をかね郷里、花石(釜石)に帰省する。東北一の製鉄所を舞台に、焼鳥屋の屋台を守る母、屋台の一風変わった客、鉄材泥棒の偽東大生、薄幸ながら心優しい娼婦かおりらが織りなす笑いと涙の心温まる青春小説。(裏表紙紹介文より)。
挫折して帰ってきた息子に、「のんびりおし」と言って迎える母親の愛情は、井上ひさしを母性の人、といわれる所以であるという。
「ひょっこりひょうたん島」は好きだったし、「吉里吉里人」はおかしかったし、「太鼓叩いて笛吹いて」は温かかった。憲法と平和を愛する井上ひさし氏に哀悼の気持を捧げます。
右の心臓 佐野洋子
佐野洋子の子どもの頃の自伝小説。
以前、母親のことを書いた「シズコさん」を読んだが、これは、父親や弟のことが書かれている。中国で終戦を迎え、帰国し父の生家に居候した静岡時代。自分に厳しかった母親と違って、父親はやさしく、厳しすぎると娘を庇う父親と母親は、いつも喧嘩ばかりしていた。兄と弟2人がいたが、弟の1人は病死、心臓が右にある病気らしい。その後、勉強はよくできるが病弱の兄は、学校や帰りにいじめられ、洋子は兄を守る立場だった。その兄も、弟と同じ病気で亡くなる。母は、長男を愛する余り、洋子に辛く当たったのだ。母は父親に息子に冷たいと非難する。何となく悲しい子ども時代の思い出である。
追憶のかけら 貫井徳郎
慟哭 貫井徳郎
共に、VINさんのレビューで読んだ本。初めての作家だった。
先に読んだのは、「追憶のかけら」、すごい物語の展開に引き込まれて、割と短時間に読みすすめた。どんでん返しが多すぎて、とても内容の紹介に自身がないので、VINさんのレビューをお借りし紹介させて頂きます。
http://yaplog.jp/ashy_ashy/archive/489
「慟哭」は、著者が世に出た最初の作品と言うことで読んだ。
こちらは、幼女誘拐殺人事件や新興宗教も扱い、警察内部の葛藤など組み込みながら事件を解明するミステリーものとして読み進んだ。しかし、最後はこんな結末で終わってほしくなかったと単細胞な読み方しか出来なかった。
こちらもVINさんのレビューを紹介させて頂きます。
http://yaplog.jp/ashy_ashy/archive/134
小さいとき置いてきたもの 黒柳徹子 新潮社
2005年7月から2009年7月まで「小説新潮」に掲載された著者のエッセー集。パンダのことや、出あった人のこと、父のことや亡くなった弟のこと、トットちゃんのことなどほろ苦い思い出もあるが、とても楽しいエッセー集です。
印象に残った、幾つかの断片の感想を書きとめる事にする。
和解 志賀直哉 角川文庫
志賀直哉の自伝的小説。祖父の代からの名家で、父は財界で名の知れた地位を築いている。主人公は小説の上では、順吉という名で登場する。裕福な家庭に育ったが、幾つかの事が重なって父とは決定的な不和が生ずる。実母は幼い頃に病死、祖母の慈しみで育てられる。その後、迎えた継母は、気遣いのある優しい人である。異母妹が大勢いて歳の離れた兄として慕われている。
最初の場面は、順吉が、娘のお墓まいりのついでに、実家の祖母に会いたいと思い、母に電話を入れるところから始まる。母親は、今は、父親が在宅なので、来ない方がいいという。順吉が父から出入り禁止になっていることを伺わせる場面である。
祖母や母親は、父子の間に立って腫れ物に触るようにオロオロする。
確執の原因は、順吉が中学生の頃、足尾銅山鉱毒事件の見学会に参加を反対されたのが不和のきっかけだった。足尾銅山は祖父が経営者の一人だったのだった。父親の命令は絶対で権威ある時代。息子は社会の理不尽に正義感を持つ年頃だ。お互いに相手を許せない。その後、帝大に入るが、結婚問題で再度衝突する。親に相談もせずきめた妻は、親友武者小路実篤の従妹である。大学もやめ、本格的作家の道に入る。
その後、第一子(長女)が亡くなったことも、父への怨みとなる。我孫子から首も据わらぬ赤ん坊を父に見せに行くよう強要されたために、異常が起きたと感じたのだった。その場面は切迫している。その後、次女が生まれ、今度は祖母や母、幼い妹たちも我孫子まで会いに来る。大家族でも絆の強さを感じる場面である。父も、息子との不和の状態に耐え難く、ひと言謝れば許そうと思っているのに、順吉も、話し合と望んでいるのに、面と向かうと理不尽に謝る屈辱に絶えられず、自分の気持を押さえられず主張してしまう。
さらに関係は悪化する。お互い頑なになる。伯父や母などが、あらゆる機会に、和解を勧めるが、どうにもならない。
母が心痛で倒れたのも気持の変化に影響をもたらした。
父に向かって素直に今までの自分の気持ちを伝えられ、和解できた。
よい小説だと感動した。
がんばらない子育て 木久扇 教育評論社
笑点で演じている、お気楽な感じをそのままと感じた。叱らず、ほめて育てる方針には、賛成だ。しかしなかなか難しい。多分、叱れない人なのだろう。気をつけているのは、食べ物のこと、添加物や身体に悪いと思ったものは、決して与えなかったという。コーラなど与えなかったし菓子類も野放図には与えなかった、ということで、きっと他でも基本的にはしっかりした子育てをしたのだろうと思った。
花石物語 井上ひさし
先頃亡くなられた、井上ひさしさんの本なので、借りてきた。井上氏自身の、青春時代をえがいた自伝小説。
上智大学に合格したものの、東大コンプレックスに陥り、吃音症に陥った、小松青年は、都会に同化出来ず、転地療養をかね郷里、花石(釜石)に帰省する。東北一の製鉄所を舞台に、焼鳥屋の屋台を守る母、屋台の一風変わった客、鉄材泥棒の偽東大生、薄幸ながら心優しい娼婦かおりらが織りなす笑いと涙の心温まる青春小説。(裏表紙紹介文より)。
挫折して帰ってきた息子に、「のんびりおし」と言って迎える母親の愛情は、井上ひさしを母性の人、といわれる所以であるという。
「ひょっこりひょうたん島」は好きだったし、「吉里吉里人」はおかしかったし、「太鼓叩いて笛吹いて」は温かかった。憲法と平和を愛する井上ひさし氏に哀悼の気持を捧げます。
右の心臓 佐野洋子
佐野洋子の子どもの頃の自伝小説。
以前、母親のことを書いた「シズコさん」を読んだが、これは、父親や弟のことが書かれている。中国で終戦を迎え、帰国し父の生家に居候した静岡時代。自分に厳しかった母親と違って、父親はやさしく、厳しすぎると娘を庇う父親と母親は、いつも喧嘩ばかりしていた。兄と弟2人がいたが、弟の1人は病死、心臓が右にある病気らしい。その後、勉強はよくできるが病弱の兄は、学校や帰りにいじめられ、洋子は兄を守る立場だった。その兄も、弟と同じ病気で亡くなる。母は、長男を愛する余り、洋子に辛く当たったのだ。母は父親に息子に冷たいと非難する。何となく悲しい子ども時代の思い出である。
追憶のかけら 貫井徳郎
慟哭 貫井徳郎
共に、VINさんのレビューで読んだ本。初めての作家だった。
先に読んだのは、「追憶のかけら」、すごい物語の展開に引き込まれて、割と短時間に読みすすめた。どんでん返しが多すぎて、とても内容の紹介に自身がないので、VINさんのレビューをお借りし紹介させて頂きます。
http://yaplog.jp/ashy_ashy/archive/489
「慟哭」は、著者が世に出た最初の作品と言うことで読んだ。
こちらは、幼女誘拐殺人事件や新興宗教も扱い、警察内部の葛藤など組み込みながら事件を解明するミステリーものとして読み進んだ。しかし、最後はこんな結末で終わってほしくなかったと単細胞な読み方しか出来なかった。
こちらもVINさんのレビューを紹介させて頂きます。
http://yaplog.jp/ashy_ashy/archive/134
小さいとき置いてきたもの 黒柳徹子 新潮社
2005年7月から2009年7月まで「小説新潮」に掲載された著者のエッセー集。パンダのことや、出あった人のこと、父のことや亡くなった弟のこと、トットちゃんのことなどほろ苦い思い出もあるが、とても楽しいエッセー集です。
by ttfuji
| 2010-06-02 23:35
| 読書