2010年 08月 29日
気ままに読書メモ |
月末が近づくと、読書録のことが気になり始める。
ところが暑さのせいか、歳のせいか書く気が起きない。楽しい読書が、プレッシャーになるなんて本末転倒であると分かっているが、その呪縛から逃れられない。
いつも題名だけと言い訳しながら、記憶の消え去る早さに、備忘録として簡単な筋だけでも書いておきたい気もあり、書いているうちに長くなったり、お茶を濁したり、お粗末な記録になる。
『日の名残り』 カズオ・イシグロ 中央公論社
VINさんのレビューでこの作家を知り、興味を感じて読んだ本の2冊目。
著者は、日本人でありながら5才の頃から父親の仕事でイギリスに住み、そのままイギリスに暮らし続けて多くの作品を発表し、権威ある文学賞も受けている。
1冊目は「私を離さないで」という題名で、臓器提供のために、クローン人間として誕生させられた子どもたちのことを描かれた衝撃的な内容だった。
『日の名残り』は、古き良き時代の英国の「執事」とは何かを書いたもの。
国際会議の舞台にも使われた、貴族の邸に働く執事スティーブンスは、常に完璧な執事を目指して人格者であり敬慕する雇い主ダーリントン卿に仕えてきた。本当の執事はイギリスにしかいない。他の国にいるのは召使いだ、といわれるが納得できる。
アメリカ旅行に出るダーリントン卿に、長く仕えた慰労の休暇を与えられ車まで貸してもらい、たまには外の風景や世の中を見てきなさいと旅に出ることを勧められる。
その旅で出会った、幾人かの人達。人生の夕方が最も輝かしい時であることも教えられる。
作品や著者のことなどVINさんが詳しく、また素晴らしい書評も書いていらっしゃるのでよろしかったらそちらをお読み下さい。
http://yaplog.jp/ashy_ashy/archive/166
『鳥人計画』 東野圭吾 新潮文庫
スキージャンプ界の最有力選手が、殺された。密告があり、コーチの峰岸が逮捕される。
峰岸に殺意はあったが、誰にも知られていないはず。密告者は誰か。警察と峰岸自身が、推理していく。
札幌のスキージャンプ場やジャンパー達を抱えている企業グループが舞台。オリンピックや世界大会に優勝するための戦略、選手達に肉体改造の研究。優秀な選手の肉体の構造や動きなど分析し、鳥人になるための人体実験的な改造計画が明らかになっていく。
『屈折率』 佐々木譲 講談社
VINさんのレビューでは、警察小説を多く手がけている作家かと思っていたら、範疇は広い作家のようだ。次々に優秀な作家が世に出、読みたい気にさせられるが、今の能力ではとても読み切れない。
『屈折率』とは、レンズや光学的な意味での屈折率。この小説では別な意味も兼ねているようだ。これは社会小説、企業小説だと思いながら読み、途中から恋愛小説でもあると思って読んだが、後半はちょっとうんざりした気分にもなった。
主人公は、一流商社で世界を相手に営業の実績を積んだが、人事のことから退職して個人商社を立ち上げる。その後の大不況と丁度バブルの後の、銀行の貸し渋りなどで、羽田や蒲田周辺の町工場などは倒産が相次ぐ。実家は、蒲田でガラス光学の工場を経営し兄が後を継いでいるが、放漫経営で続かなくなるのも、時間の問題だ。亡父の弟、叔父が、ガラス工場を建て直すためにお前が社長になれ、と言ってくる。叔父も会社を経営しているがこのままでは共倒れになる。
自分の商社も、経営が苦しくいかに負債を残さず、整理しようかとメドをたてていたときだったが、兄の説得など気が重い。
財務諸表から、問題点が幾つもあるが、倒産しないで済む見通しもある。特殊光学の磨きに優秀な職人が何人かいる。顧客も一流のところが多い。リストラや再建案を書いた書類が銀行に認められなければ、融資は受けられない。組合長との説得やあまりかんばしくない従業員の首切りも断行する。兄の役員報酬のカット、別荘の売却、新市場の開拓と八面六臂の活躍で、蒲田の町工場との横の繋がりも利用する。兄とは何度も諍いを起こす。
ガラス工場の昼夜2部制の窯の一つを女性ガラス工芸家に貸している。
夜、見回って、その女性を知り、何度か話すうちに、お互いに惹かれる。
妻も女性起業家をサポートする仕事をしていて忙しい。お互いに家庭には縛られないが、見栄で夫には社会的にも堂々と格好良く、みっともない生き方だけはするなと、釘を刺す妻だ。
主人公が工芸家の女性にのめり込んでいくところ。兄や妻に知られ追いつめられるが、個人的なこととして口を挟ませない。男女の濃厚な関係、理解は出来るが私は好きではない。
『3月の招待状』 角田光代
VINさんがアップされていたし、図書館の返却棚で見つけたので借りてきて読んだ。
『対岸の彼女』『8日目の蝉』に続いて3冊目だ。
大学時代仲間だった2人から、離婚パーティーの「招待状」が届く。この2人何度も別れてはまた一緒に暮らしている。仲間達は、野次馬と同窓会気分から出席する。30代そこそこの、現代の男女模様なのかと、バカバカしかったが、一通り読んだ。そろそろ私の年代にあったものを選んで読みたいと思う。
『妖しい詩韻』 内田康夫
内田康夫に嵌った時期があったが、いまはあまり読んでない。
この本は、今まで作品中で書いた殺人事件は数知れない。しかし、殺された人の言い分は書いていない。殺された人はどうなっているかを想像して描いたという。ちょっと不気味なショートショートである。
『奇縁まんだら』 瀬戸内寂聴 画 横尾忠則 日本経済新聞出版社
2日前、郷土史の役員会の折、nagakiさんから、とても面白いから読んでみて、と渡
された本。
沢山読む本があるから、遅れると思ったが、真っ先に1日で読んでしまった。
人付き合いのいい、人好きな寂聴さんらしく、いかに多くの作家や文学者、評論家と交流があったか驚く。新人時代は大作家訪問に恐る恐るの対面だったようだが、有名になるに従って観察もインタービューも堂々としたもの。新聞連載中から好評で出版を待つ声が高かったエッセー集と帯に紹介されている。興味深い本だった。
島崎藤村 正宗白鳥 川端康成 三島由紀夫 谷崎潤一郎 佐藤春夫
船橋聖一 丹羽文夫 稲垣足穂 宇野千代 今東光 松本清張 河盛好蔵
里見 弴 荒畑寒村 岡本太郎 壇一雄 平林たい子 平野謙 遠藤周作
水上勉
イラストレーターの横尾忠則氏が、油絵の似顔絵を描いている。この絵がイラストと肖像がを兼ねて素晴らしい。日本経済新聞に連載されたものらしいが、以降続編へ、とあるから交友録は後を絶たないだろう。
ところが暑さのせいか、歳のせいか書く気が起きない。楽しい読書が、プレッシャーになるなんて本末転倒であると分かっているが、その呪縛から逃れられない。
いつも題名だけと言い訳しながら、記憶の消え去る早さに、備忘録として簡単な筋だけでも書いておきたい気もあり、書いているうちに長くなったり、お茶を濁したり、お粗末な記録になる。
『日の名残り』 カズオ・イシグロ 中央公論社
VINさんのレビューでこの作家を知り、興味を感じて読んだ本の2冊目。
著者は、日本人でありながら5才の頃から父親の仕事でイギリスに住み、そのままイギリスに暮らし続けて多くの作品を発表し、権威ある文学賞も受けている。
1冊目は「私を離さないで」という題名で、臓器提供のために、クローン人間として誕生させられた子どもたちのことを描かれた衝撃的な内容だった。
『日の名残り』は、古き良き時代の英国の「執事」とは何かを書いたもの。
国際会議の舞台にも使われた、貴族の邸に働く執事スティーブンスは、常に完璧な執事を目指して人格者であり敬慕する雇い主ダーリントン卿に仕えてきた。本当の執事はイギリスにしかいない。他の国にいるのは召使いだ、といわれるが納得できる。
アメリカ旅行に出るダーリントン卿に、長く仕えた慰労の休暇を与えられ車まで貸してもらい、たまには外の風景や世の中を見てきなさいと旅に出ることを勧められる。
その旅で出会った、幾人かの人達。人生の夕方が最も輝かしい時であることも教えられる。
作品や著者のことなどVINさんが詳しく、また素晴らしい書評も書いていらっしゃるのでよろしかったらそちらをお読み下さい。
http://yaplog.jp/ashy_ashy/archive/166
『鳥人計画』 東野圭吾 新潮文庫
スキージャンプ界の最有力選手が、殺された。密告があり、コーチの峰岸が逮捕される。
峰岸に殺意はあったが、誰にも知られていないはず。密告者は誰か。警察と峰岸自身が、推理していく。
札幌のスキージャンプ場やジャンパー達を抱えている企業グループが舞台。オリンピックや世界大会に優勝するための戦略、選手達に肉体改造の研究。優秀な選手の肉体の構造や動きなど分析し、鳥人になるための人体実験的な改造計画が明らかになっていく。
『屈折率』 佐々木譲 講談社
VINさんのレビューでは、警察小説を多く手がけている作家かと思っていたら、範疇は広い作家のようだ。次々に優秀な作家が世に出、読みたい気にさせられるが、今の能力ではとても読み切れない。
『屈折率』とは、レンズや光学的な意味での屈折率。この小説では別な意味も兼ねているようだ。これは社会小説、企業小説だと思いながら読み、途中から恋愛小説でもあると思って読んだが、後半はちょっとうんざりした気分にもなった。
主人公は、一流商社で世界を相手に営業の実績を積んだが、人事のことから退職して個人商社を立ち上げる。その後の大不況と丁度バブルの後の、銀行の貸し渋りなどで、羽田や蒲田周辺の町工場などは倒産が相次ぐ。実家は、蒲田でガラス光学の工場を経営し兄が後を継いでいるが、放漫経営で続かなくなるのも、時間の問題だ。亡父の弟、叔父が、ガラス工場を建て直すためにお前が社長になれ、と言ってくる。叔父も会社を経営しているがこのままでは共倒れになる。
自分の商社も、経営が苦しくいかに負債を残さず、整理しようかとメドをたてていたときだったが、兄の説得など気が重い。
財務諸表から、問題点が幾つもあるが、倒産しないで済む見通しもある。特殊光学の磨きに優秀な職人が何人かいる。顧客も一流のところが多い。リストラや再建案を書いた書類が銀行に認められなければ、融資は受けられない。組合長との説得やあまりかんばしくない従業員の首切りも断行する。兄の役員報酬のカット、別荘の売却、新市場の開拓と八面六臂の活躍で、蒲田の町工場との横の繋がりも利用する。兄とは何度も諍いを起こす。
ガラス工場の昼夜2部制の窯の一つを女性ガラス工芸家に貸している。
夜、見回って、その女性を知り、何度か話すうちに、お互いに惹かれる。
妻も女性起業家をサポートする仕事をしていて忙しい。お互いに家庭には縛られないが、見栄で夫には社会的にも堂々と格好良く、みっともない生き方だけはするなと、釘を刺す妻だ。
主人公が工芸家の女性にのめり込んでいくところ。兄や妻に知られ追いつめられるが、個人的なこととして口を挟ませない。男女の濃厚な関係、理解は出来るが私は好きではない。
『3月の招待状』 角田光代
VINさんがアップされていたし、図書館の返却棚で見つけたので借りてきて読んだ。
『対岸の彼女』『8日目の蝉』に続いて3冊目だ。
大学時代仲間だった2人から、離婚パーティーの「招待状」が届く。この2人何度も別れてはまた一緒に暮らしている。仲間達は、野次馬と同窓会気分から出席する。30代そこそこの、現代の男女模様なのかと、バカバカしかったが、一通り読んだ。そろそろ私の年代にあったものを選んで読みたいと思う。
『妖しい詩韻』 内田康夫
内田康夫に嵌った時期があったが、いまはあまり読んでない。
この本は、今まで作品中で書いた殺人事件は数知れない。しかし、殺された人の言い分は書いていない。殺された人はどうなっているかを想像して描いたという。ちょっと不気味なショートショートである。
『奇縁まんだら』 瀬戸内寂聴 画 横尾忠則 日本経済新聞出版社
2日前、郷土史の役員会の折、nagakiさんから、とても面白いから読んでみて、と渡
された本。
沢山読む本があるから、遅れると思ったが、真っ先に1日で読んでしまった。
人付き合いのいい、人好きな寂聴さんらしく、いかに多くの作家や文学者、評論家と交流があったか驚く。新人時代は大作家訪問に恐る恐るの対面だったようだが、有名になるに従って観察もインタービューも堂々としたもの。新聞連載中から好評で出版を待つ声が高かったエッセー集と帯に紹介されている。興味深い本だった。
島崎藤村 正宗白鳥 川端康成 三島由紀夫 谷崎潤一郎 佐藤春夫
船橋聖一 丹羽文夫 稲垣足穂 宇野千代 今東光 松本清張 河盛好蔵
里見 弴 荒畑寒村 岡本太郎 壇一雄 平林たい子 平野謙 遠藤周作
水上勉
イラストレーターの横尾忠則氏が、油絵の似顔絵を描いている。この絵がイラストと肖像がを兼ねて素晴らしい。日本経済新聞に連載されたものらしいが、以降続編へ、とあるから交友録は後を絶たないだろう。
by ttfuji
| 2010-08-29 13:30
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