2007年 05月 20日
『笹まくら』を読む |
VINさんが、紹介して下さった、米原万里著「打ちのめされるようなすごい本」のなかで、読みたいと思った本は何冊もあったが、万里さんが、小説家の友人にすすめられた、打ちのめされるようなすごい本としてある本を紹介された。万里さんは、勿論その本も読み、それでは、とお返しにと勧めたのが、この「笹まくら」だった。丸谷才一氏の著作である。この著者の「女ざかり」は読書会の課題本として読んだ。文章も構成もしっかりしている。教養人で内容が豊か、正しい国語の指南本と批評された。
俄然、読みたい意欲がわいて、図書館で調べて頂くと、古い本なので地下の書庫にあるという。すぐお借りしたが、結構厚い文庫本。旧仮名遣いは多少学んでいるので気にならないが、文字が小さくしかも線の細い活字である。目が疲れているときは拡大鏡の世話になりながらゆっくり読んだ。朝、目覚めたあとは、視力も戻り結構捗った。ある程度読むと、引き込まれて時間があれば昼間も読むようにした。日数はかかったが漸く、今日午前中に読み終えた。やはり、ふ~っと溜息が出るようなすごい本だった。お蔵入りするのは勿体ないと思った。
某私大の庶務課、課長補佐として働いている、浜田庄吉は、かって、徴兵忌避者であった。高等工業専を卒業した年、召集令状が来るが、前日、かねて準備していた通り逃避の生活が始まる。憲兵の目、刑事の目。民間人の追求や疑念の目に怯えながら、日本中を北から南まで、時に朝鮮までわたる。緻密な分析や人の内面の心理の裏を読み取る才能、警戒心は、もともと備わった性格もあるが、こうした生活から養われたものだろう。
小説は、現在の生活場面から始まって、過去が節々に織り込まれて行く手法は見事と言うほかない。終戦で連絡を取った手紙の返信で、母親の死を知らされる。弟は、兄が原因と思われるリンチで、鼓膜が破られ、音楽の仕事ができなくなっている。母は自殺だったらしい。父親は、町医者でどうにか安定した生活はできている。どちらかといえばリベラルな、反戦の家風があった。
父は、息子の就職を、友人に頼み、友人は後輩の大学の理事長に頼み、職員にしてもらう。結婚もこの理事の仲介でする。仕事は真面目によくできるが、ふとしたきっかけで、過去が知られることとなる。戦後20年余りで早や再軍備の声も聞こえ始めている。本人は、兵役を忌避したのは、この戦争の意味に疑問があること、人を殺す戦争を容認できない。その他、理由はあり、単に戦死がこわいだけではないという。
逃避中の彼を助けた人たち、年上の女性、阿貴子の存在、砂絵師の稲葉の存在も大きい。阿貴子は四国の質屋の一人娘だが、この二人の存在なくては生き延びられなかったであろう。この小説の冒頭部分に彼女の死亡通知が来ることが書かれている。こんなに世話になったのに、薄情なこと、と思ってしまう。事情を話してない若い妻の存在もある。赤新聞といわれる暴露新聞に暴露されたり、学生新聞にインタービューを申し込まれたりで大学ににとって、浜田は迷惑な存在になる。就職時に世話になった理事でさえ、味方ではないと感じる。
大学の中にも表面上は、擁護や同情の言葉をかける人でも、自分は戦争に行った、といかにも卑怯なことはしなかった、と断ることを忘れない。
浜田は、人の自分に向ける言動に、いちいち複雑な分析をする。一日として平穏な日はない。裏を読み、深読みをする。疑心暗鬼にもなる。最後に、思わぬ出来事もある。
すごい本で、考えさせられる本だが、そのまま、現在に復刻すると、問題があるのではないかと感じるのはセリフの中で、時代を考えれば当然と思うが差別語が結構目立つことである。
最後に、表紙に書かれた紹介文は
<笹まくら・・・旅寝・・・かさかさする音が不安な感じ・・やりきれない不安な旅。戦争中、徴兵を忌避して日本全国に逃避の旅を続けた杉浦健次こと浜田庄吉。20年後、大学職員として学内政治の波動のまにまに浮き沈みする彼。過去と現在とを自在に往きかう変化に富む筆致を駆使して、徴兵忌避者のスリリングな内面と、現在の日常に投じるその影をみごとに描いて、戦争と戦後を問う秀作。
俄然、読みたい意欲がわいて、図書館で調べて頂くと、古い本なので地下の書庫にあるという。すぐお借りしたが、結構厚い文庫本。旧仮名遣いは多少学んでいるので気にならないが、文字が小さくしかも線の細い活字である。目が疲れているときは拡大鏡の世話になりながらゆっくり読んだ。朝、目覚めたあとは、視力も戻り結構捗った。ある程度読むと、引き込まれて時間があれば昼間も読むようにした。日数はかかったが漸く、今日午前中に読み終えた。やはり、ふ~っと溜息が出るようなすごい本だった。お蔵入りするのは勿体ないと思った。
某私大の庶務課、課長補佐として働いている、浜田庄吉は、かって、徴兵忌避者であった。高等工業専を卒業した年、召集令状が来るが、前日、かねて準備していた通り逃避の生活が始まる。憲兵の目、刑事の目。民間人の追求や疑念の目に怯えながら、日本中を北から南まで、時に朝鮮までわたる。緻密な分析や人の内面の心理の裏を読み取る才能、警戒心は、もともと備わった性格もあるが、こうした生活から養われたものだろう。
小説は、現在の生活場面から始まって、過去が節々に織り込まれて行く手法は見事と言うほかない。終戦で連絡を取った手紙の返信で、母親の死を知らされる。弟は、兄が原因と思われるリンチで、鼓膜が破られ、音楽の仕事ができなくなっている。母は自殺だったらしい。父親は、町医者でどうにか安定した生活はできている。どちらかといえばリベラルな、反戦の家風があった。
父は、息子の就職を、友人に頼み、友人は後輩の大学の理事長に頼み、職員にしてもらう。結婚もこの理事の仲介でする。仕事は真面目によくできるが、ふとしたきっかけで、過去が知られることとなる。戦後20年余りで早や再軍備の声も聞こえ始めている。本人は、兵役を忌避したのは、この戦争の意味に疑問があること、人を殺す戦争を容認できない。その他、理由はあり、単に戦死がこわいだけではないという。
逃避中の彼を助けた人たち、年上の女性、阿貴子の存在、砂絵師の稲葉の存在も大きい。阿貴子は四国の質屋の一人娘だが、この二人の存在なくては生き延びられなかったであろう。この小説の冒頭部分に彼女の死亡通知が来ることが書かれている。こんなに世話になったのに、薄情なこと、と思ってしまう。事情を話してない若い妻の存在もある。赤新聞といわれる暴露新聞に暴露されたり、学生新聞にインタービューを申し込まれたりで大学ににとって、浜田は迷惑な存在になる。就職時に世話になった理事でさえ、味方ではないと感じる。
大学の中にも表面上は、擁護や同情の言葉をかける人でも、自分は戦争に行った、といかにも卑怯なことはしなかった、と断ることを忘れない。
浜田は、人の自分に向ける言動に、いちいち複雑な分析をする。一日として平穏な日はない。裏を読み、深読みをする。疑心暗鬼にもなる。最後に、思わぬ出来事もある。
すごい本で、考えさせられる本だが、そのまま、現在に復刻すると、問題があるのではないかと感じるのはセリフの中で、時代を考えれば当然と思うが差別語が結構目立つことである。
最後に、表紙に書かれた紹介文は
<笹まくら・・・旅寝・・・かさかさする音が不安な感じ・・やりきれない不安な旅。戦争中、徴兵を忌避して日本全国に逃避の旅を続けた杉浦健次こと浜田庄吉。20年後、大学職員として学内政治の波動のまにまに浮き沈みする彼。過去と現在とを自在に往きかう変化に富む筆致を駆使して、徴兵忌避者のスリリングな内面と、現在の日常に投じるその影をみごとに描いて、戦争と戦後を問う秀作。
by ttfuji
| 2007-05-20 19:39
| 読書